そのうち笑い話になるさ

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夜中に犬 原作を読む

夜中に犬に起こった奇妙な事件

夜中に犬に起こった奇妙な事件

原作を読みました。なるほど、なるほど。
やっぱり小尾さんの訳は、読みやすいなあ。
(早川SF文庫で楽しんだ話は、大概が小尾芙佐訳だったものです。)

ひょっとしたらネタバラシとなるかもしれないので、続きからどうぞ。






装丁の好みで新装版を選んだのですが、表紙のみならず本編も凝っていて素敵。開いて早々ニコちゃんマークとか、突然2から始まる章(7→11で仕組みに気づいた)とか、案内板とか、ピクトグラムとか、パズルとか。オカルト好きなら一度は目にしてときめく「コティングリー妖精事件」の写真まで出てきて驚いた。文体も、これは早川SF文庫版アシモフのロボットシリーズや「夏への扉」で個人的に慣れまくっているからも多少はあるかもしれないが、さすが小尾さん訳、するすると頭に入ってくる。小中学生くらいにもおすすめ。

ちなみにミステリーは中盤で解けちゃいます。犬を殺したのは、やっぱりあの人(私はそれでもびっくりしたけど。)バスカヴィル家の犬のネタバラシもあるので、ホームズ未読の方は注意ですぞ。

他人の感情を理解できず、あくまでも論理的、数理的に物事を処理するのが(ひょっとするとヒューマノイドロボットに通じそうなせいか)実に小気味良いというか、忘れていた理系心を呼び覚まされるというか。ただし、物語後半は一転してその個性にヤキモキさせられまくることに。保護者の愛情も他人の善意も近所のばあちゃんの優しさも理論の前には通用しないのがもどかしい。ロンドンのくだりは父ちゃんに同情して辛かった。不倫はいけない。

ラストで急ぎすぎた感じ。まあ、ハッピーエンドなのであろうけど。

時折挟み込まれる、哲学ゾンビの思考実験を思い出すような他者への考察や、物理と数学のパズルは「なるほど、わからん」だった(そういえば、囲碁を覚えようとしたときもこんな調子で挫折してしまった)けど、懲りずにじっくり考えてストンと腑に落ちたときは気持ちがいい。昔読んだ「博士の愛した数式」とか「数の悪魔」とかを思い出した。あの手の話がするするいけるなら、たぶんクリストファーがおもしろいと思うような世界はきっとおもしろい。

軽度のアスペルガー症を示す人々に接する機会も多いのだが、ちょっとだけ参考になった気もする。森田さんがとなると、何かこう、発達障害をやらせるとなぜかピタリとハマって上手いからなあ。あの予想の斜め上を行く言動や過剰な臆病さがねえ、匂わせているのか。犬発見して抱きしめるところを飼い主に発見されうずくまる冒頭のシーン、脳内再生余裕でした。木野花はきっとシボーン先生でしょう。彼女の「どうにかしてくれそう」感は異常。

原作をどのようにアレンジするのかはわからないが、どうしてこの心を閉ざした天才児(帯の文句)の役を、日本で、今さら30オーバーの森田剛にやらせようと思ったのか……その理由を劇場で一目観ることができたらどんなにいいだろう。ああでも厳しいんだろうな東京公演。ところで、見た目にも15歳の森田さんが見られるという解釈でいいのか。三宅健ではないが、森田さんどんな風貌で舞台中を過ごすのかにちょー期待。17歳(金髪)以来の期待。